九州の窯1

 

　豊臣秀吉が、一五九二（文禄一）年と一五九七（慶長三）年の二度にわたって、延べ三十万の軍勢で李氏朝鮮国に対して起こした戦争を日本では「文禄・慶長の役」と言い、朝鮮国では「壬辰・丁酉倭乱」と呼びます。

　全国を統一した秀吉は、次の目標として「明国を征服する」ことを考えました。これは彼の名誉欲からであり、領土を一層拡大したかったからであり、さらにしばらく途絶えていた日明貿易の再開を考えていたからだろうと言われています。

　一五九一（天正一〇）年一〇月、秀吉は肥前名護屋（佐賀県鎮西町）に対明戦争の基地として巨大な城の建設を始めました。秀吉は、朝鮮半島を軍用の通路として利用するため、李氏朝鮮国を服属させ、対明征戦の先導をさせようとしました。彼は国内の戦国大名を服属させたことの延長線上に朝鮮国を位置づけて、戦国の論理をそのまま押し付けようとしたのです。このような計画を朝鮮国が受け入れるはずはありません。朝鮮国では、明国に救援を求めました。予定の日時が過ぎても思い通りにはならない秀吉は、まず朝鮮国を攻めることから始めることにして、名護屋に集結した大名たちに出陣を命じました。

　日本では過去百年余りを戦争に明け暮れしていました。武将にとって軍事軍略は日常のことです。武器も整っていました。一方、朝鮮国は、これまでの約二百年間は平和な時代が続いていました。誰も戦争が起こることなど想定はしていませんでした。

　開戦直後は日本軍の圧勝が続きました。ところが後半には、海上で李舜臣の率いる亀甲船が活躍し、日本の補給が難しくなるとともに、民衆による抗日義兵のゲリラが展開し、日本軍は苦戦を強いられることとなりました。泥沼状態になった戦争が終わったのは、秀吉の死去によりました。

　前後六年余にわたる戦争は、朝鮮国に莫大な被害と深い傷跡を残しました。耕地は半分以下となり、虐殺や餓死、病没の続出で人口が減少しました。文化財の焼失、学問や科学技術に関する多くの資料、資材を紛失しました。日本に強制連行された人々は五～六万人とも言われています。

　この戦争の結果、明国では援軍や戦費負担などが崩壊の一因となり、日本の豊臣政権は自滅することになりました。しかし朝鮮国は戦後の政治改革の効果と民衆の民族意識の高まりなどから、李朝政権の存続に成功しました。

　この戦争に出兵した西国大名たちは、朝鮮から多くの陶工を連行してきました。陶工たちにとっては、人生を大きく狂わせてしまったできごとでしたが、彼らの登場によって日本の陶磁器生産には革命的な進展を遂げることになりました。その中で特筆できるのは、伊万里の誕生です。