喫茶の歴史4

 

　鎌倉時代中期ころまでの喫茶は，趣味的，嗜好的なものではなくて、実用的なものでした。特に禅宗の寺院では，厳しい修行の中、座禅をしているときに襲ってくる睡魔を退けるための眠気覚ましとして活用されていました。また同じ仏教界でも、奈良の寺院では、民衆救済のために健康増進、体力回復の薬として施茶が行われていました。

　奈良西大寺の中興の祖と言われた僧叡尊は、貧民救済に力を尽くした人で，茶の薬用効果に着目し、機会あるごとに民衆に茶を施していました。今も行われている西大寺の大茶盛は、叡尊の施茶行が発端だと伝えられています。

　鎌倉時代の中ごろを境にして、人々の茶の扱い方に変化が現れました。都では貴族たちの間で、鎌倉では上級の武士たちの間で歌会や園遊会など、人々の集まるところに、目新しい趣向として、茶が用いられるようになったのです。茶が、当時の人々の好みに合った美味しい飲み物として歓迎されたのです。

　茶を点てて、飲むだけのことですが、これが富裕な階級の人々の遊びとなると、手許にあるありあわせの道具だけでは面白くありません。当然道具にも趣向を凝らします。茶道具は唐物と言って中国から輸入されたものでなければなりませんでした。

　さらに、茶会を開催するには道具を揃えるだけでなく、会場となる部屋のつくりから、建物や庭園にまで配慮したり、手の込んだ造営がなされることにもなったのです。

　また。闘茶と呼ばれる遊びが流行しはじめたのもこのころからのことでした。平安時代の宮廷で盛んに行われていた，香合せ，貝合せ，絵合せ，花合せと言った物合せの一つとして発生したもののようです。闘茶は、数種類の茶を飲み分けて異同を競う遊びです。私たちの周囲には，お酒やビールを一口飲んで銘柄をぴたりと当てる人がいますが、ことによるとこんなことでも賭け事として成り立つこともありそうですね。当時の闘茶会に集まった人々は，お茶の同異を飲み分けていたのです。 はじめは親しい者たちが寄ってささやかに楽しんでいた遊びが，富裕な階層の人々によって次第にエスカレートして，どんどんスケールの大きな遊びに発展しました。

　ここで興味をひくのが，これら闘茶の会には食事が伴っていることです。茶会では，先ず軽い食事をして，席を改めて闘茶を楽しみ，その後は再び酒食の席が設けられていました。

　茶会の前に摂る軽い食事を懐石といいます。空腹のままで茶を飲むのは良くないので、胃に負担をかけないために、軽い食事を摂るのです。暖めた石ころを腹部に当てておくと空腹を一時紛らわせることから、一時の空腹しのぎ程度の食事を「懐の石」と呼ぶようになったのです。